○ 晒しスレとの闘い

こすもぐにも当初、重複スレが出来るほど閲覧者が多かった事で
2chに他の大規模MMOと同様のテーマ別のスレがありました。
その一つが通称「うざスレ」「晒しスレ」と呼ばれる
個人名を挙げて、批判したり罵ったりするものでした。

この時期そのスレを舞台に激しい晒し合いが続き
こすもぐ内の人間関係は混迷を極めました。

比較的穏和な人が多く雰囲気のマッタリしたこのゲームでも
土地を持って、そこに住むことが基本なので
人付き合いの単位も形式も「村社会」になりがちです。
村社会というのは現実世界でもそうですが、独特な性質があります。

隣に住む人は選べませんし、仮に自分と合わない人が隣に居ても
土地というのは財産の意識や想い出の詰まった存在なので、
自分の方が引っ越してしまえばいいやとは、なかなか思えないものです。

新しく近くに越してきた人があれば噂は付き物ですし
人間にはテリトリー感覚がありますから
その内側に侵入されれば、本能から生理的な不快感も覚えます。

そして人が少ない事で一人一人の人間の存在感は強くなり
発言の影響力も強くなり、自己完結した集団になっていきます。
そこでしか通用しない矛盾を押し通してしまう場合もあるでしょう。

元から居た人間は、それまでしてきたやり方を求めがちで
求められた側は、監視され、他者のやり方を強要されたと感じます。

馴染めない人が去って従順な人だけが残る事が繰り返されると
グループの色は一層濃くなり、内部にのみ通用する上下関係が生まれ
まるでカルト宗教のように暴走してしまう事すらあります。

人が激減した直後のこすもぐは、まさにそんな状態でした。
体験版の効果か、徐々に新プレイヤーが見掛けられるようになり
それまで暗黙のルールだった事も、通用しなくなりました。

私はこの時期まで2chのスレは見ないようにしていたのですが
晒しスレが再燃しているという噂を聞いて久しぶりに覗きました。

このスレの歴史を大きな流れで説明すると
初期の頃は、他のMMOと同様に目立つ人が揶揄されたり
根拠の薄い晒しがすぐに流されたり、平和な部分もありました。
まったくあいつは仕方ないヤツだ、と笑い合う雰囲気もありました。

5月末までは地面に置いた荷物の所有者を表示する機能がなく
FS占拠の犯人が誰なのか、推測するしか無かった事情もあります。

そのうち、明らかな迷惑行為を注意してもやめない人への苦情や
ゲーム内の言い合いでは解決しないほどこじれてしまった者同士が
場を変えて、お互いを責め合うような書き込みが多くなりました。

定期的に常連の名前が挙がって攻撃を受ける状態で
客観的に見ていても不快に感じるような汚い言葉が飛び交いましたが
まだ少し、争いの理由を第三者にも理解させるような
節度と呼べるような、書き込む人の善意がそこにありました。

ある意味「ごく普通の晒しスレ」と言える状態です。

そして人が減り、数少ないプレイヤー同士の晒し合いになり
「なんとなくムカつく」といったような曖昧な理由で
既存のコミュニティに入れない人たちの名が並びました。
ここから先は、他の要素も絡んできたと言えると思います。

画面を通して見た行動は、その人の人間性のうちのほんの一面でしかなく
ネトゲ世界では特にそれが顕著だと私は考えているので、行動の批判ならともかく
感情的に罵ったり、ウザイ人と呼んだりする事は嫌っています。

しかし傍観者で居られたのは、ほんの数日間でした。
日に日に晒しの内容が執拗で細かくなってゆき
その中に大切な友人たちの名も挙がってくるようになったのです。

そしてとうとう、私の名前もそこに出されました。
自分が攻撃にあって初めて、今更ながらに色んな事を知りました。

自分の言動を快く思わない人が居たという事
実は知らない間に派閥同士の対立に巻き込まれていたという事
匿名の人間からの中傷が、いかに人を傷つけるかという事
友達からの励ましが、どれだけ助けになるかという事…

2chは同じ人が多人数を装って何度も発言する事の多い場所ですが
少人数だろう、たった一人かもしれない、と自分に言い訳をしても
自分を罵る人間の存在を無視することは、想像以上に難儀です。

誰かが「それは誤解だ」と擁護するレスをつけてくれる事に感動し
それに対し「本人が自己弁護しにきた」とレスをつける人に失望し
事実と違うことや、誤解を生む話を書き込む人に怒り
一体書き込んでいるのは誰なんだ?と猜疑心を持つ。

関わった人の多くがそうやってモニタの前で傷つき、疑い、嘲笑もし
その異常な精神状態は、ゲームの中にも持ち込まれました。

ちょうど新しい実装が何も無い、空白の時期でした。
イベントも無く、皆やることが無かったんです。

ヒマがウワサ話を呼び、面白おかしくウワサをするうちに
自分も陰で噂されているかもしれないと思い始め
先手を打つように第三者にその人の噂をして味方につける。

そんな昼ドラ並にB級な光景が実際に繰り広げられ
皆が、攻撃から自分を守ることに必死になっていました。

ログインするたびに沢山のFLが届きましたが
ほとんどが誰に何をされて不快に思ったかという内容で
この考えが正しいよね?あなたは味方だよね?と確認するための
距離感をはかるような言葉で占められていました。

私を含めて沢山の人が、この空気に疲れ切ってログインしなくなり
そのまま未練を残して引退する人が、また増え始めました。
こすもぐは大好きなんだけど…そう語りながらです。

新人、古参とその二つの枠組みにだけ分けられて対立し
自己中な新人が現れたと晒され、説教厨の古参がウザイと晒される。

2垢以上持っているというだけで何故かバカにされ、非難され
既婚者というだけでウワサするしか能のない陰湿主婦と嘲笑われ
サイトを持つだけで威張っている、仕切っていると言われました。
ルールをまだ知らないだけの人が「新人空気嫁」と揶揄されました。

いずれ全員の名前が出るんじゃないか?と誰もが思いました。
その位人が少なく、その位さしたる理由もないまま晒されたのです。
イジメの構図にも似た本当に無意味な対立でした。

私はこの時のことを、今でもとても後悔しています。

FLで送られてくるウワサ話を、無責任に肯定はしませんでした。
しかし、その同調しない反応のせいでなおさら語気を強くする相手に
「もう聞きたくない」の一言が言えないままでした。
言う人の側にも、自分自身を止められない葛藤があるのを感じ取れました。

あの時ログイン時間を減らして逃げてしまわずに
堂々と人前に出て、FLの窓の中に隠されてしまった対立を
表に出して、ちゃんとした話し合いに転化できなかったのか?

1人でどうにか出来るほどの力が自分にあると思うのは傲慢。
でも誰かが毅然とした態度で表現しないと、何も起きないのも現実。
やらない善よりやる偽善…そうしたいと思いつつ
自治厨と呼ばれるのが怖くて出来なかったんじゃないのか?
私のような気持ちで居た人も、多かったのではないでしょうか。

罵り合う事に疲れて去った心優しき古い仲間たちにも
この時期にこすもぐを始めて、悪い印象だけを持って去った人たちにも
心の中で、何度もゴメンナサイと言っていました。

どうしてこんな風になってしまったんでしょう?
どうして、楽しむはずのネトゲでこんな辛い思いを?
間違った行動を注意する時には、さり気なく諭すやり方があるはず。
迷惑をかけたなら、その人にゴメンねを言えばいいはず。
なのに、この時はそんな当たり前の事が出来ない空気が支配していました。

人が減って、強がりながらも抱えていた寂しい想い。
引退者からゲーム自体を悪く言われ、かたくなになった自衛心。
楽しみを何も与えてくれない運営への怒り。
その中に自分なりの楽しみを見付けて一生懸命になれる人への嫉妬。
新規プレイヤー参入で再編成されるコミュニティのぎこちなさ。

そんな小さな要素のひとつひとつが絡み合い
誰が原因でもなく、元々性格の悪い人が集まっていたわけでもなく
もはや未完成のままこすもぐが世に出た時から、こうなることが
運命づけられていたような道筋だったと、今振り返ると感じます。

その後しばらくして晒しスレは過疎化で消滅しました。
そして少しずつ、皆が新しい道を進むことが出来ました。

この時期を経て、ずいぶん時間はかかってしまいましたが
新人・古参の枠組みは薄れ、ギスギスした雰囲気は徐々に和み始め
相手をよく知ることで、誤解を解き互いに信頼を得る…
その当たり前のことが、少しずつ、少しずつ、また出来るように
こすもぐと共に、プレイヤーたちも成長したのです。

争いごとが完全に消える事はありませんでしたし
対人関係で迷いが生まれる瞬間は、きっと生きている限り尽きませんが
こののちのこすもぐなら、外の人にも胸を張れる気がしていました。

無料期間だけでも、かつての仲間たちに戻ってきて欲しいと
私が繰り返し口に出して言ったのは
彼らにも、ぐっと成長してやることの増えたこすもぐと
成長したコミュニティを見てもらいたかったからかもしれません。