○ マスカットビーチの実装と夏イベント

ビーチの盛り上がりは、予想外の方向へ進みました。

見慣れたはずの場所に新規MAPが追加された事が目新しく
波打ち際という、今まで想像しなかった景色が目に楽しく
散歩で拾ってくるアイテムは、とても可愛らしく人気でした。

地下の散歩場は取り立てて魅力がなく、すぐに廃れました。
実は地下散歩場でも、他にないレアアイテムを拾ってくるのですが
あまりにレアで、それを知る人、挑戦する人が少なかったのです。

その分ビーチは明るく開放的で、気分の良い場所でしたし
期間限定のアイテムが拾える、散歩経験値稼ぎに良い、と
いつ行っても大勢の人が居るような人気の社交場になりました。

リアルでも波打ち際は、長時間居ても落ち着ける場所ですが
平面の世界なのに、このビーチにも不思議とそんな魅力があります。

他に無い広いFS、シティという立地条件などが後押しして
バブーの散歩会や各種イベントが、このビーチで開かれました。

後期には、全農イベントや称号に必須のアイテムを得る場所として
何度か一時的に人が集まる場所になりましたが
特に何もない時期は、誰も来ないダダっ広い空間でした。

でもそんなビーチが好きで、なんとなく誘い合わせて訪れたり
SSの撮影に使われたり、地味ながら人気のあった場所です。

ビーチが最も重要な役割を果たしたのは「友達の再編」でした。

こすもぐの友人関係は、基本がご近所関係で成り立っています。
種屋の前や、近くの井戸で会った人と会話して親しくなったり
人の集まる村へ行くと、いつの間にか座談会になっていたり
小さく自然発生したコミュニティ単位がほとんどでした。

それが劇的なプレイヤー数の減少で、一旦は崩壊したのです。
馴染みの村へ行ってもかつてのような座談会は見当たらず
オンライン表示になっている友達リストはいつもまばらでした。

ネトゲである必要が無い、とまで言われるほど極端な
ソロプレイ主体のゲームだったこすもぐは
自然と、内向的な性格の人たちを引き寄せました。

特に、過疎化の進んだ時期に残ったプレイヤーの多くは
黙々と農作業を繰り返したり、ふらりと採取の旅に出掛けたり
そういった気ままな生活を、心から楽しめる人たちでした。

パーティを組んで闘う必要も無く、ギルドシステムも無いので
強制される付き合いも少ないのですが、出会いも少なくなります。

顔見知り程度の人が集まる場所でも、ひとりふたり親しい人が同席すれば
その人の友人も居て盛り上がったり、仲間の発言をフォローしたり
それなりに輪に馴染んで、楽しむ事もできます。

しかし仲間が去る事で、お互いを繋ぐ糸が所々切れる事になり
知らない人の集まる光景を見て逆に疎外感を感じるようになりました。

各地に散らばる、控えめで人付き合いの得意でないプレイヤーたちは
もしかしたら自分以外の人は皆、今頃楽しく話して居るのだろうかと
そんな事を考えながら、寂しく過ごす毎日でした。

それがこのビーチのイベントで、少し違う様相を見せたのです。

これまでは長時間大勢が同じ場所に座り続けるような場所はなく
必然的に同じ人たちと何度も顔を合わせる場所だったビーチは
新しい友達を作る、絶好の機会を与えてくれたのです。

レアアイテム集め、しかも期間限定という目的がありますから
情報交換や、拾ったアイテムの交換などが自然に発生します。

なかなか拾わない愚痴、下着に見える白ビキニを着るおかしさ
他愛ない話題なら、いくらでも生まれてきました。

私自身も、この場所でずいぶんと大きな収穫を得ました。
ごく親しい仲間は他のゲームに移住してしまい、いつも一人で
ビーチへ来ても、数回挨拶を交わした程度の顔見知りしか居ません。

居心地の悪さを感じつつも世間話をする事に少しずつ慣れ
彼らの魅力を初めて知り、どんどん親しくなってゆきました。

ここにも金の鉱脈はあったのです。気付かないだけでした。
残り物の寄せ集めには、想像を遙かに超えた福があったのです。

かつて対立や競争を経たグループの人たちが
個人個人の人間性を知って親しくなり、新しい友達になりました。
なんだ、喋ってみたらこいつ面白いじゃん?そんな感じでした。

友達リストには沢山の新しい名前が追加され
全てのレアを集めた後も、人恋しくなるとビーチへ向かいました。