○ 体験版の誕生と同窓会

体験版は、今更感と期待感の両方を背負って生まれました。

過疎化の後、残った人も皆が何かしら不満を感じながら
プレイしているのに、運営は何も対応してくれない。
まるでこすもぐが完成度の高い、賑わったゲームであるかのように
公式サイトの文面だけは、体裁が整っている。

体験版は、そんなハリボテ運営を象徴しているようにも見えて
最初はあまり良い印象を受けませんでした。

しかし相撲を除く一通りの実装が済んだ印象があったため
今、この完成度なら新規の人を招き入れる事に力を注いでも良いと
運営側も、ユーザに応えるつもりで考えたのかもしれません。

サービス終了の不安が常に付きまとっていたゲームなだけに
続行の意思を運営から確認できたという意味で
体験版の誕生を喜ばしく思う気持ちもありました。

ごく初期からプレイしていた仲間たちの多くがこの時期に去り
その大多数が、運営を批判する言葉を残してゆきました。

何故こんなクソゲーを続けるの?と訊かれもしました。
2chなどでは、お金を払わされている飼い犬とまで言われました。
一緒に別のネトゲに移ろうと、何度誘われたか分かりません。

でも私を含めた残留組は結局、こすもぐが好きだったんです。

単純にプレイが楽しく、友達との談笑が楽しく
月々支払う500円に充分見合う何かを得ていると感じていた
ただそれだけの事だったんだろうと思います。

しかし今の社会では、ネトゲにハマりすぎる事が
社会生活に支障を来し、人をダメにすると広く知られていて
ダメだと烙印を押されたネトゲを見限ることができないのは
意思が弱いからだ、依存から抜け出せない負け組だからだと
悪く言われてしまうのも当たり前になっています。

批判のうちの多くは、そういう視点から語られたもので
残留組の中にも、それに強く反論できない心理がありました。

実際に、今まで一緒になって運営方針や未実装を批判してきましたし
辞められない理由の中に、せっかく大きい土地を手に入れたから
この中ではちょっとした有名人になれたから、といった
他者に告白するには、少し格好悪いものも含まれていたからです。

でも世の中全体が、いかにポジティブ支持だったとしても
そんな価値観に馴染めない人たちも多く居ます。

広い世界を知って、不特定多数の人と交流して刺激を受けることが
絶対的に良い事だとする今風の価値観が、正論だと分かっていても
感情面でそれに同意する事が出来ない。
ダメなもの、弱いもの、古いもの、変化のないものを愛する。
人間にはそういう部分もあり、そんな生き方を選ぶ人も居ます。

そんな人には、惰性で残留していると言われるのも違和感があって
かといって、どれだけこすもぐが楽しいゲームかを語るには
さすがに根拠が少なすぎる状態で、上手く反論できないモヤモヤは
引退論者との溝を、少しずつ大きくしてゆきました。

好きなものを好きだと言うと、バカにされてしまう哀しさ。
ダメなものをダメだと言うと、噛みつくように反論される怒り。
そんな居心地の悪さは結局、残留組を一層かたくなにさせ
引退組の居場所を奪い、過疎化を更に押し進めました。

そんな中で体験版が生まれたことは、一筋の光明でもありました。

課金する気は無いけれど、中の様子は見てみたい。
ケンカ別れのように去ったけど、本当は嫌いなわけじゃないあの人に
今、自分がどう語られているのかを確かめたい。
そんな心残りを抱いている引退者も多かったんです。

無料で新しくキャラクターを作る事も出来る体験版は
そんな人がふらりと戻って来る機会を作ってくれました。
小さな同窓会が、時折どこかの村でひっそり開催されました。

わだかまりを消し去るほどの力は体験版にはありませんでしたが
もう一度彼らに会うチャンスを得た事は、本当に嬉しい事でした。