○ +220シマイモの誕生

タピオカンが目標としていた日が、とうとう来ました。
+220のシマイモが、この日初めて誕生したのです。

後期には様々な種類の+220種が生まれ
新人さんを含め、持っていない人の方が少ない程普及しましたが
そのほとんどが、元を辿ればこの1個の種に行き着くと思います。

種増殖ダンスを発見した友人は、その日以来コツコツと畑仕事を続け
いつの間にか、その人の家に毎晩集まるのが習慣になっていました。
病気治療ダンスをまだ知らなかったため、本当に大変な作業でした。

この日は最後に残っていた一部の属性を上げるため
バブックスを所持する友人に、はるばる来てもらっていました。

既に種は+200近くになっていたので、収穫までの時間は長く
その間に皆で協力して、サーチャー組や買い物組に分かれ
ダンス用のジュースなどを持ち寄って、見守っていました。

協力や応援はしてきたものの、実際に作ろうと思い立ち
色々な研究をし、大変な作業のほとんどを請け負ったのはその友人で
そのため、彼は仲間内からも最高の賛辞を受け尊敬されました。

とにかく凄いものを生み出したという感慨が強く
興奮と感動で、タピオカンはしばらくお祭り騒ぎを楽しみました。

しかし、薄々感じていた不安感について話し合う必要もありました。

のちの状況を見れば説明するまでも無いことですが
+220の種が新人さんの手に渡ってしまうということは
苦労した末に何かを得るという、ゲームの構造そのものを壊します。

βの頃のような、お金が無くて苦労するという状態は
苦しい反面、創意工夫の楽しさを与えてくれる機会でもありました。

そして、今までとは比較にならない金額を一度に稼げるようになれば
それまでのゲーム内の貨幣価値が、完全に崩壊するのは明らかでした。

誰かが苦労して作ったベンチをバザーで売ったとしても
それまでの数千zという値段なら、簡単に買い占めてしまえます。
それは、プレイヤーの労力というものの価値が低くなるという事です。

仮にこの種が行き渡り、皆が簡単に数万zを稼げるようになれば
ゲーム全体の物価が上がり、それはそれで新しい貨幣価値が生まれます。

しかしそうなると、種を持っていないごく一部の人にとっては
全てのアイテムが手の届かない金額になってしまいます。
楽に何でも買えてしまうつまらなさも、ゲームの質をおとしめるはずです。

しかし逆に、この種を仲間内だけのモノにしてしまうと
ごく一部の人だけが極端なお金持ちになり、貧富の差が顕著になり
GMオークションの時のような、楽しみの独占が発生するかもしれません。

誰にあげるかあげないかで、仲間割れやいさかいが起きるでしょうし
持っている人への妬みや、持っている事の後ろめたさが
人間関係を壊してゆく様子は、充分想像できました。

結局、どちらを選択しても行き詰まるわけです。

+220種は、実は大きな功罪をもたらすとんでもない鬼っ子だったのだと
誕生させてしまった後に、気付くことになりました。

最初のタピオカンの選択は「仲間内だけ」でした。

苦労が大きかったため、簡単に人にあげる気になれないのはもちろんです。
噂を聞きつけた人が、いかにも貰うために急に親しげにしてきたり
人間の嫌な部分を見せられる事も多かったため
最初のうちは仲間が結束して、個人の判断で譲ることは避けていました。

そしていずれ、他の人も同様の手順でこれを作るようになるかもしれないし
種が広まってしまった時の害の方が、独占した時の害より大きいと考え
時期が来るまで、ひっそりと必要な時だけ使うという不文律が出来ました。

しかし、すぐにその考え方も、変えなくてはいけなくなりました。

噂が広まるのは予想以上に早く、どこまでを仲間と考えるかは難しく
裏技を使って作った物なんじゃないか?持ってるからって威張ってない?と
タピオカンが、買い物で内惑星に行くことすら気まずくなるような
冷ややかな視線と、羨望混じりの評を受ける時期が来ました。

そこでまた話し合い、少ない数の+220種を配る事にしました。

育てるのが簡単すぎるシマイモの種はなるべく避け
バザーなどで人が集まった時、パンナやトマトあたりの種を用意し
なるべく、顔見知りの古いプレイヤーだけが居るタイミングを見計らい
新人さんに広めないで、なるべく村の発展に繋がる使い方をして、と
呼びかけつつ、数個を地面に置くというようなやり方でした。

実際に多くの人が、一番重要な「新人さんには渡さない」という約束を守り
それぞれの村の店の発展維持などに有効に使ってくれました。

そして各々の判断で増殖させ、少しずつ広まってゆくという
一番無難と思われる流れで、この種は普及していきました。

地面に置けば、早い者勝ちの争奪戦。
バブッパ所有者が仲間に居なければ、増やす事もままならない。
この先きっと、安易に人に譲ってしまう人が現れるはず。
配ることで、優越感に浸っていると非難される可能性も充分にある。

問題だらけのいびつなやり方ではありましたが
誰が作ったとしても、いずれはこうなったんだと自分に言い聞かせて
とりあえず、そういう形でこの種の扱いに決着をつけました。

私は数ヶ月の長い間、早く広く渡ってしまう事を恐れて
バブーショップで売られているのを見れば、私財をはたいて買い占め
新人さんに譲ってしまう人の噂を聞けば、直接会って事情を説明し
新人潰しと取られ批判されたり、説教されたと恨まれたりしながら
鬼っ子を生んでしまった罪を償うような意識で、抵抗を続けていました。

そんな中で、安易なお金稼ぎを嫌い
この種を持っていても使わず、他の野菜を地道に育てて楽しんでいたり
あえて入手せず、自分と仲間で0から育てて+220野菜を作ったり
そういう人たちも現れたのが、気分的にとても救いになりました。

あれから時が経ち、誰でも持っているアイテムになりました。

さすがにもう、ある程度広まってしまえば流れに抗う意味もありませんし
普及に合わせた物価の変動も一通りの道のりを辿ったので
危惧する必要も無くなりました。

この種については、責任感から随分とプレッシャーを感じてきましたが
時間が経って、一応の結論が出た今では
こすもぐの歴史を左右したアイテムの誕生に立ち会った事に
むしろ誇りを持ち、良い想い出を得る事ができたと感じています。